これから展開する考察は Sleep No More の考察…と言うより、Sleep No More と The Burnt City 両方における、パンチドランクの世界観に関する考察です。
私はSleep No More と The Burnt City しかパンチドランクの作品は観てませんが(…そうなんだよなぁ。こんだけ嵌ってるのに2作品しか観てないんだよなw)、どちらの作品でも1:1で使われているフレーズがあります。ドイツの劇作家による未完の戯曲「WOYZECK」の中にある、寓話的な部分です。
とりあえず文章写すと…。
Once upon a time there was a poor child
With no father and no mother
And everything was dead
And no one was left in the whole world
Everything was dead
And the child went on search day and night
And since nobody was left on the earth
He wanted to go up into the heavens
And the moon was looking at him so friendly
And when he finally got to the moon
The moon was a piece of rotten wood
And then he went to the sun
And when he got there
The sun was a wilted sunflower
And when he got to the stars
They were little golden flies
Stuck up there like the shrike
Sticks'em on a blackthorn
And when he wanted to go back down to earth
The earth was an overturned piss pot
And he was all alone
And he sat down and he cried
And he is there till this day
All alone
The burnt City では「Iphigenia(左)」って言う、キャラクターの1:1でこの台詞は語られます。一方、Sleep No More では「Matron ( 右 )」って言うキャラクターの1:1で語られます。
マトロン のバックストーリーはあまりに情報少なすぎて語れないんですがw、ナース(クリスチャン・ショー)の双子キャラと言うことで、彼女と似通ったバックストーリーを持っているとすると、全てに絶望したキャラ…と言っても良いのではないでしょうか。(クリスチャン・ショーのバックストーリーに関してはいつかまとめるつもりです。) 父親に魔女扱いされ、病院に隔離された少女。一方でイピーゲネアも酷い人生を送った少女です。
父親アガメムノンにアキレウスと結婚するようほのめかされたにも関わらず、アガメムノンの二枚舌によって結婚式を挙げる前に生贄になることに同意し、自ら命を断った少女。
どちらも「これが運命と呼ぶならばなんと酷い運命なんだ…」と呪いそうな話です。
その彼女たちからこの「Children’sStory」が語られる。とても意味深いです。
「WOYZECK」が書かれた時代…19世紀は科学…とりわけ生物学、進化論などが確立し、今までの神学論が崩壊、ニーチェなどによる無神論が産まれた時代です。神がそれまで導いて来た道徳的かつ神秘的な世界は否定され、科学的に理路整然と世界が語られ始める時代。それは魔女狩りの嵐が吹き荒れ、欧米人が宗教に疲れ果てていた時代と重なっていました。神の子としての存在の崩壊と宗教への不信。そこに生まれたニーチェのニヒリズム。「神は死んだ」。人々のよりどころは神から科学へと移ってゆくのですが、その黎明期でもありました。
Sleep No More だけ観ていると、どちらかと言うと魔女狩りが起こっていた混沌の時代への慟哭や叫びを描いているような気がしていたんですが、The Burnt City を観てから気持ちが変わりました。どちらかと言うと虚無ですかね。パンチドランクが描こうとしているのは。
「Children’s Story」ですよ。
神々が死に絶えた後そこに残った世界は虚無。ひっくり返った小便坪だったんですよ。
Burnt City __ 焼き尽くされた都市の人々は魂となり、再生してゆくものだと思っていました。多分違いますね…。そこには何も無いんだと思います。神から愛想をつくされた空っぽの人間。Sleep No More __眠れぬ「繰り返しの悪夢」から覚めたそこにあるのは死。
神は人間を愛していた。だから愛していた頃の人間の「記録」は繰り返し繰り返し擦り切れるまで観る。観続ける。でも。「今」の人間には興味が無いんだと思います。だからそこから先の記録は「無い」。
神無き世界。
パンチドランクの世界観はそこに向かって狂った人間が突進して行く姿を描いているような。そんな気がしています。(個人的な意見です)